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3.もの書きになりたい


 この感動を一晩は抱きしめていたい、と思ったかどうかは覚えていないが、翌日、執筆の依頼を喜んで受けますという返事を書いた。

 「DTP-Sをアップロードして6ヵ月半、準備期間も含めると8ヵ月以上になると思いますが、多分私は寺田さんのメールを待っていたのだと思います。もともとは『Adobe Illustratorお茶の子サイサイ』を出版したいという思いから始めたものです。大阪にいることもあり出版社に売り込みにいくことは物理的に難しく、せっかくインターネットというツールが手近にあるのだから、Webで公開すれば、なんらかのリアクションがあるだろうという安易な思いでした。実際こうして出版社の方から依頼されるとは思ってはいませんでした」

 と私は寺田さんに返事をした。
 本を出版するようになりたいというのは、昔からの夢だった。もともと本が好きで、年間100冊や200冊の本を読むのは当たり前で、1週間も本を読まないと中毒症状がでるほど本なしでは生きて行けない人間だった。いつかは読む側でなく、書く側に、執筆する立場になりたいと思っていた。
 昔はSF作家になりたいなどと、錯覚していたことがあったが、考えて見ると、SFで書きたいテーマなど全然ないことに気付き、SF作家になるなどいうことはとっくに昔に忘れ去っていた。そのころはSFは書くよりも読むほうが面白かった。もっとも最近は全然読んでいないのだが...
 それでもSFの臭いは染み付いているようで、「Gordian Knot」というタイトルは、アンキサンダー大王の故事であるということよりも、小松左京氏の中篇「ゴルディアスの結び目」のタイトルが忘れられなかったからだし、「みだれ撃ち読書ノート」は筒井康隆氏が奇想天外誌に連載していた「みだれ撃ち涜書ノート」のタイトルを分けていただいた。
 さきごろJAGATのセミナーでDTP-Sの紹介をしていたら、わけ知りのセミナー参加者に「DTP-Sは70年代のSFの臭いがする」と指摘されてしまった。まさにそのとおりである。
 本屋にいくと毎日毎日、たくさんの書籍が発行され、ああして本を出版できる人というのは、世の中でいうとたった人握りでしかないことはわかるが、それでもいままで執筆したものが、本となって出版されたという人は万を越えるに違いない。世の中の全ての人がもの書きになりたいわけではないから、もの書きになることを目指せば、確率としては数百分の1でなれるわけである。
 現実には出版というものは、出版社の編集者とのパイプのあるなしで決まることも多く、地方にいると、パイプそのものがない。それはまるで霞が関と地方自治体の関係の様なものかもしれぬ。とくにこうした専門書は、なにも見ず知らずのホームページの作者に依頼せずとも、いろんな伝手をたどって、しかるべくパイプのある「適任」の人物に依頼するものだと思っていた。どのようなテーマであっても東京には、「書き手」はいくらでもいるのである。
 一説によると、東京にいる4人にひとりは、マスコミ関係者である論というものもあり、自称を含めるとライターは掃いて捨てなければならないほどいるようである。
 しかし世の中には、いろんな出版社があり、それぞれ価値観や行動様式は違うのであって、ホームページを見て、執筆を依頼することがあるやもしれぬと思ってはいたものの、実際に「執筆のご依頼」がきてしまうと、人間努力すれば、必ず報くわれるのだと、得心した次第。人事がどれだけつくされたかはわからないが、天命は降ったのであった。
 たとえ見ず知らずのホームページの作者で、価値があるなら依頼したいと考えていたとしても、やはり取りあえず「一度会いたい」ということから始まるのではないか。一度会って氏素性、性格などをよくよく吟味して、執筆を依頼しても大丈夫がどうか、社会的なルールは守れるのかというようなことを値踏みしてから、というのがスジだろう。今となれば思うのだが、私は運がよかったのだろう、最初から「執筆のご依頼」を受けてしまったのであった。



このコンテンツは1997年9月10日に書かれたものです。

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